安らぎの時は、昨日と今日の間」
漆黒の魔竜
幾多の戦いで思う「戦いの場でしか、安らげる場所はないのか」
市街を嘗め尽くす劫火が黒い異形なる人の物に迫る。
視界に広がるは、黒い炎。硝煙が鼻孔を擽り、鉄の味の水が
喉を潤す。戦いの場で、幾千の敵を屠り。己の肉体だけで、感情という迷いも
踏み越えていった。いくつもの街を巡り。安らげる場所を求めていた。
だが、彼に待っていたのは、「戦場という名の殺戮だった」
黒く焦げた血肉の匂い。手をつないで逃げ惑った人の腕。舗装された道には、
銃器と襲撃者の肉片が転がっていた。
彼は、10年以上もたった独りで戦い抜いた。誰にも認められることもなく。
誰にも触れられることもなく。ただ、背中に向けられたのは、「憎しみ」だった。
その憎しみが、とても哀しくて。つらかった―――――
異形なる人の漆黒の禍々しい鎧に、紅い血潮のような淵は彼の涙のように思える。
しかし、多くの物は、その涙は「歓喜と狂気」にしか見えず。本当の処まで見ようとは
しなかった。
彼は振り返ると、寂しそうに言った。
「私には、心も体も安らげる場所はないのだろうか? いや、それこそ。夢物語かもしれない」
燃え尽きる街を背に、一歩。また一歩と歩いていく。
仮面の下には、血が混じった涙が幾筋も流れていたことに本人は気づかなかった。
これは、漆黒の魔竜と言われた異形なる王と不器用で真っすぐな剣を携えた男の物語。